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【DTM】コンプレッサーの使い方をマスターしよう!「動作タイプで使い分ける」編【DAW】

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コンプレッサー記事第3弾!

今回は、コンプの動作タイプ別の使い分けです!

 

ハードウェアのコンプレッサーには、真空管、光学式、FET、VCAといった動作タイプがあり、多くのメーカーからリリースされているプラグインも、それぞれの特徴がモデリングされています。

 

動作タイプの違いによって、同じようなパラメータ設定でも音に違いが現れるので、今回はそれぞれの特徴と、その使い分けを紹介していきます!

真空管(Variable MU)

真空管を圧縮回路に使ったタイプで、1950年代には既に登場していたコンプ界の古参です。

有名なのはビートルズが使用したFairchildの660 及び670でしょう。

 

中域に粘り気のある圧縮感が特徴のタイプです。

良くも悪くも、掛けるだけで音のキャラクターが変化するコンプレッサーですので、"通すだけ"にも使われています。

 

角の取れたなめらかな音にする

ヴォーカルにかけてなめらかな音にするのは真空管コンプの定番用途です。

このタイプのコンプは、パラメータの設定は軽めでも圧縮感はしっかり感じられるものが多いので、リダクションさせすぎないように注意しましょう。

 

ドラム全体や2mixにかけてまとめる使い方も常套手段です。

ただし、真空管コンプの音は良く言えばなめらか、悪くいうと"ヌルい"音にも感じられるので、曲調によってはハマらない可能性もあります。

 

プラグインで再現

使用プラグイン:IK Multimedia / Vintage Tube Compressor/Limiter Model 670

前半はオリジナル、後半にコンプをかけています。

今回はヴォーカルに掛けてみました。

TIME CONSTANTというアタック/リリースのプリセットを3番(アタック0.4ms、リリース2秒)で、2dB強リダクションさせています。

 

60年代ブリティッシュサウンドを作る

同じ真空管コンプを複数回通すことで、ピンポン*1を繰り返して劣化したサウンドを再現してやります。

 

プラグインで再現

使用プラグイン:IK Multimedia / Vintage Tube Compressor/Limiter Model 670

前半はオリジナル、後半にコンプをかけています。

ベースのトラックに同じ設定で4つインサートしました。

こちらもTIME CONSTANTは3番。GRはかすかに針が振れる程度ですが、INPUT LEVELを突っ込んで大げさにサチュレーションさせています。

 

代表的な機種

・Fairchild 660 及び670

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Fairchild 670

・EMI RS 124

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CHANDLER LIMITED RS124 (EMI公式の復刻版)

 

・MANLEY Stereo Variable MU Limiter/Compressor

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MANLEY Stereo Variable MU Limiter/Compressor

など。 

Drawmerの1960なども真空管のコンプですが、こちらは半導体も使用してます。

というより、純粋に半導体を全く使っていない真空管コンプというのは実はあまりないんです。

 

光学式(Optical)

光学式とは、入力された音声(=電気信号)で電球やLEDを光らせ、その光を受光素子が検知すると抵抗が働くという仕組みのコンプレッサーです。

その構造上、どうしても反応に時間がかかるためアタックを早くできないのですが、逆にそれがナチュラルな掛かり具合になるのです。

 

Opto、Optなどの表記もあります。

 

掛け録りに使う

スタジオ定番のTUBE-TECH CL1Bを筆頭に、ヴォーカル等の掛け録りに多用されています

レコーディングの際には素早く設定を終わらせる必要がありますが、アタックが遅めのタイプなので音の立ち上がりを削ってしまう心配も少なく、録音現場でも迷い無く使えるのが光学式です。

掛け録りについては、今でも何故ハードウェアのコンプレッサーを使うのか?最大の理由は「掛け録り」!?で触れていますので良かったらどうぞ。

 

ナチュラルに音量を平均化する

色付けの少ないタイプなので、自然に音量を整えるのが得意です。

また、前述のようにアタックが遅めなので、ヴォーカルの音の立ち上がりを削ってしまう心配が少ないのも使いやすい点ですね。

逆にいうと、深くかけると立ち上がりが目立ちすぎることもありえますので、注意しましょう。

 

プラグインで再現

使用プラグイン:Waves / Renaissance Compressor Optモード

前半はオリジナル、後半にコンプをかけています。

レシオは4:1、アタック10ms、リリース16msに設定し、3〜4dBほどリダクションさせました。

 

代表的な機種

・TELETRONIX LA-2A

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UNIVERSAL AUDIO LA-2A

 

・TUBE-TECH CL1B

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TUBE-TECH CL1B

 

・AVALON DESIGN AD2044

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AVALON DESIGN AD2044

 

など。

何と言っても代表格はTELETRONIXのLA-2A。

ちなみにTELETRONIX社は60年代には売却されており、現在はUNIVERSAL AUDIOからリリースされています。(ロゴはTELETRONIXのままなのがブランド力の高さを物語っていますね〜)

FET

電界効果トランジスタ(Field Effect Transistor)という回路を用いたコンプレッサーで、アタック/リリースともにかなり速く設定できるのが特徴です。

特にFETタイプの代表格であるUREI 1176は、1967年に登場して以降、現在に至るまでロックサウンドの主役的存在です。

 

歪ませる!

アタック/リリースともに速くできるということは歪ませられるということ。

このサウンドは1176の得意とするところです。

 

プラグインで再現

使用プラグイン:Waves / CLA-76 BLUEYモード

前半はオリジナル、後半にコンプをかけています。

レシオは8:1、アタック/リリースともに最速に設定し、GRメーターの針が振り切るところまでインプットを突っ込みました。

レシオを全部押しにすればもっと強烈な歪みも作れますよ。

 

ロックなヴォーカルを作る

前に張り出してくるようなソリッドなロックヴォーカルを作るには最適なタイプです。

男女問わずパワフル系のヴォーカリストには非常に良く合います。

 

プラグインで再現

使用プラグイン:Waves / CLA-76 BLUEYモード

前半はオリジナル、後半にコンプをかけています。

レシオは8:1、アタックは9時半くらいとやや遅め(といってもFETなので速いです)、リリースはほぼ最速に設定し、3dBほどリダクションさせました。

非常に歯切れの良いロックなヴォーカルになっています。

 

エッジの立ったスネアに

スネアとの相性も抜群です。

とくにエッジの際立った鋭いスネアを作るのには良く使われています。

アタック/リリースの設定次第で色々な音作りができるのも面白いところです。

 

プラグインで再現

使用プラグイン:Waves / CLA-76 BLACYモード

前半はオリジナル、後半にコンプをかけています。

レシオは4:1、アタックは最長(左回しきり)、リリースは最速(右回しきり)に設定し、3dBほどリダクションさせています。

スティックがヘッドにヒットした音が際立つ、抜けのいい音になりました。

 

ここからリリースを遅くしていけばタイトさが増しますし、アタックを速くしていけば逆にルーズで歪みっぽい音になります。 

 

代表的な機種

・UNIVERSAL AUDIO 1176LN

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UNIVERSAL AUDIO 1176LN

 

 

・SPECTRA SONICS 610

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SPECTRA SONICS 610



・Purple Audio MC77

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Purple Audio MC77

など。

1176の現行品はUNIVERSAL AUDIOからリリースされている1176LN。

実機の音は、DTM定番コンプ!1176系プラグイン3機種プラス実機を比較してみた!で聴けますので良かったらどうぞ。

 

VCA

最後にVCAタイプ。これはICチップを使ったコンプレッサーです。

出音は素直で色付けも控えめなので、パートを選ばない万能タイプと言えます。

また、ノイズも少なく、いわゆるコンプ臭さも出にくいので、ミックスの最終段に使われることも多いタイプです。 

 

ルームマイクにかけてドラムを元気に

ドラムのルームマイクに強めにかけることで、元気なサウンドにします。

部屋鳴りが強調されて全体の馴染みも良くなります。 

 

プラグインで再現

使用プラグイン:Waves / SSL G-Master buss Compressor

前半はオリジナル、後半にコンプをルームマイクにだけかけています。

ルームマイク以外のパートには何のプラグインも挿していません。

レシオ10:1、アタック0.1ms、リリースは300msに設定し、常時リダクションしている強めの設定です。

ポンピングサウンドにしても面白いのですが、今回はリリースを長めにしてシンバルの揺れが起きないようにしました。

 

バスコンプとして使う

各パートの音をまとめる接着剤などと例えられることも多く、マスターバスにかける用途にも定番なのがVCAタイプ。

2mixにかけても破綻しづらく、ミックスのバランスを崩さないのが特徴です。

 

プラグインで再現

使用プラグイン:Waves / SSL G-Master buss Compressor

前半はオリジナル、後半にコンプをかけています。

レシオ4:1、アタック10ms、リリースはオートに設定し、リダクションは1〜2dB程度に抑えました。

ミックスの印象を損ねることなく、音にまとまりを生んでいます。

圧縮しすぎてしまう場合はレシオ2:1でもOKです。 

 

代表的な機種

・dbx 160

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dbx 160 (エミュレートプラグイン)

 

・SSL Bus Compressor

 

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SSL Bus Compressor

 

・api 2500

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API 2500

など。

api 2500も、元はミキシングコンソールに組み込まれていたマスターコンプです。

 

ちなみにPA現場等でよく見かけるdbx 160Aは、一応160の流れを汲むVCAコンプではあるのですが、強くかけるとコンプ臭さが割と出てくる機種なので注意してください。

 

おわりに

いかがだったでしょうか?

それぞれのタイプのコンプレッサーを用途に応じて使い分けることで、狙ったミックスに近づきやすくなるはずです。

また、コンプごとにキャラクターの違いがありますので、同一タイプのコンプレッサーでミックスをするよりも分離感立体感も出しやすくなります。

 

ここで紹介したのはあくまで一例で、絶対こうしなければならないというものではありません。

が、今まで同じコンプばかり使ってたという人は、試しに様々なタイプのコンプレッサーを使い分けて、どのように音が変わるか比べてみてはどうでしょうか。

 

 

 

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*1:録音済みの数パートをまとめて空きトラックにダビングすること。

レコーダーのトラック数が少なかった時代に多用されていました。

「ピンポン録音」とも。