DAWでのプラグインエフェクトの使い方のお話。
リバーブ、ディレイ、EQ、コンプレッサーetc・・・様々なエフェクターがDAWには用意されていますが、その掛け方の違いについて説明します。
また、ちょっとイレギュラーな使い方も紹介してますので、ぜひ参考にしてみてください!
リバーブやディレイは「センドリターン」で
まず、リバーブやディレイといったエフェクトの掛け方。
これらは、センドリターンと呼ばれる方法を使います。
例として、ボーカルにリバーブをつける場合を見てみましょう。
この場合、ボーカルトラックに直接プラグインをインサートはしません。
上の図のように、別のトラックを用意し、そちらにインサートします。
この「別のトラック」とは、Pro ToolsやLogicでいうところの「AUXトラック」、CubaseやStudio Oneでいうところの「FXチャンネル」です。(以下、「AUXトラック」で統一)
そして、ボーカルトラックのセンド欄からAUXトラックに送ります。
この送る量で、リバーブのかかり具合を決めることができます。
これで、ボーカルトラックからは原音のみが出力され、AUXトラックからはエフェクト音のみが出力されます。
どのトラックもメインアウトプットに出力されますので、最終的にはそれらが混ざった音が聴けるというわけです。
以上のエフェクトの掛け方が「センドリターン 」です。*1
この方法では、ひとつのAUXトラックに各パートからセンドしてやることで、同じエフェクトを共有できます。
Pro Tools、Logicでのセンドリターンのやり方
Pro ToolsやLogicでセンドリターンを使うには、「バス」という概念を知っておかなければいけません。
「バス」とはDAW内部の通り道のことで、この通り道を介して、あるトラックからあるトラックへと、音を送ることができます。
手順
①AUXトラックを作成
②エフェクトを掛けたいトラック(下画像では「Vocal」トラック)のセンド欄で任意のバスを選択(ア)
③AUXトラックのインプットを先ほどのバスに変更(イ)
④AUXトラックにリバーブやディレイのプラグインをインサート(ウ)
⑤バスのフェーダーを調整して、センドする量(=エフェクトのかかり具合)を決める
このようになります。
CubaseやStudio Oneでは
なお、CubaseやStudio Oneでのセンドリターンは非常にシンプルです。
これらのDAWでは「バス」は省略されており、FXチャンネルを作成した時点で、各トラックからFXチャンネルにセンドできるようになります。
EQやコンプレッサーは「トラックに直接インサート」して
次に、EQやコンプレッサーといったエフェクトですが、これらは、かけたいトラックに直接プラグインをインサートするだけでOKです。
こうすることによって、原音は消え、トラックからはエフェクトが掛かった音のみが出力されます。
エフェクトの種類による使い分け
ではなぜ、エフェクトの種類によって掛け方を使い分けるのでしょうか?
原音に付加するエフェクトか、原音を変化させるエフェクトか
エフェクトのタイプは、大きく2種類に分けられます。
原音に付加するエフェクト
リバーブやディレイは、原音に付加するタイプのエフェクトです。
これらは、原音が残った上で、エフェクト音が混ざって聞こえる(=付加される)ことで効果を発揮します。
このタイプはセンドリターンで使います。
もし、このタイプを直接インサートしたらどうなるでしょう?
ディレイで考えてみると分かりやすいです。
ディレイは音を遅らせるエフェクトです。
もし、ボーカルトラックに直接ディレイをインサートしてしまったら、原音が消え、遅れてきたボーカル だ け が聞こえることになってしまいます。
原音を変化させるエフェクト
一方、EQやコンプレッサー等、大抵のエフェクトは原音を変化させるエフェクトです。
このタイプは直接インサートして使います。
もし、このタイプをセンドリターンで使ったらどうなるでしょう?
こちらは、EQでローカットする場合で考えてみると分かりやすいです。
もし、センドリターンでEQを使ってしまったら、せっかくローカットしても、元のトラックからはローカットされていない原音が出力されてしまいます。
イレギュラーな使い方
以上の使い分けを知った上で、イレギュラーな使い方をすることがあります。
付加するタイプのエフェクトを直接インサートする
リバーブやディレイには、大抵の場合Dry/Wetというパラメータが付いています。
これは、原音(Dry)とエフェクト音(Wet)のバランスを決めるパラメータです。MIXという名前になっているものもありますが、同じパラメータです。
基本的にデフォルトでは100%。つまりエフェクト音(Wet)のみが出力されるようになっています。
ここを100%未満に設定することで(5〜10%程度が普通)、直接インサートしても原音を消さずに出力することが可能になります。
ただし、リバーブはCPU負荷が高いため、トラック毎に何十個もインサートするとコンピュータの動作が重くなる原因になります。
それに、リバーブは数個だけ立ち上げ、各パートで共有した方がミックスの統一感も出やすくなります。
よって、あくまで基本はセンドリターンです。
変化させるタイプのエフェクトをセンドリターンで使う
逆パターン。これはかなりイレギュラーな使い方ですが、実はオススメの方法です。
原音のニュアンスを残したまま、ハードなエフェクト効果を得たい場合に使います。
たとえば、ドラムにハードなコンプを掛けてみます。
これが元素材です。
このドラムのトラックに直接コンプをインサートした場合を聴いてみましょう。
かなりハードに掛けました。
これはこれでカッコイイのですが、アタックが潰れてますし、余韻が持ち上がりすぎなのも気になります。
では、AUXトラックにコンプを挿み、そちらにセンドした場合を聴いてみましょう。
この掛け方だと、原音は元のトラックからそのまま出力されます。
そして、AUXトラックからはコンプを通ったハードな音が出力されます。
原音とコンプを通った音が混ざるわけです。
原音のニュアンスはそのままに、コンプのハードさを出すことに成功しました。
この方法はディストーション系プラグインなんかにも有効です。
ディストーションエフェクトはローがやせるので、元のトラックにはインサートせずに、AUXトラックに挿み、そちらにセンドしてやります。
芯がありつつも歪んでいるサウンドが作れますよ。
まとめ
・リバーブやディレイといった、原音に付加するタイプのエフェクトはセンドリターンで使う。
・その他のEQやコンプレッサーといった、原音を変化させるタイプのエフェクトは、各パートのトラックに直接インサートして使う。
・使い分けを知った上で、イレギュラーな使い方もできる。
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*1:「リターン」という呼び方のせいで、「元のトラックに音が戻ってくる」と勘違いする人が見受けられますが、そうではありません。
アナログミキサーで、外部のエフェクターに音を送ってからミキサーの空きチャンネル(つまり別のチャンネル)に音を戻してきたことに由来する呼び方です。