好きなアーティストのCDも、TVで流れているCMソングも、どこかで誰かが録音したものです。
そんな録音物を手がけているのがレコーディングエンジニアと呼ばれるお仕事。
今回は、レコーディングエンジニアになるにはどんな知識やスキルが必要なのか、どういったルートで仕事に就けるのか、という内容です。
※レコーディングといっても必ずしも音楽とは限らず、ナレーションやアフレコを録るレコーディングエンジニアも存在しますが、ここでは音楽に限定してお話ししていきます。
レコーディングエンジニアになるルート
レコーディングエンジニアになるのに決められたルートはありません。
が、比較的こういうルートを辿った人が多いよ、というものを紹介していきます。
正攻法 レコーディングスタジオに就職
レコーディングスタジオに就職し、一歩ずつ着実にキャリアを積んでいくのが正攻法です。
いきなりレコーディングはできない!
レコーディングスタジオに就職しても、最初からレコーディングエンジニアにはなれません。
・アシアシ
最初はアシアシという、"アシスタントのアシスタント"になるところからスタートします。
アシアシがやる仕事は、掃除などの雑用や仕込み・バラシ。
大手スタジオだとアシアシの更に下のポジションがあり、「最初の1年は電話番と買い出しくらいしかやらせてもらえなかった」ということもあったり・・・。
といっても、最近ではアシアシとアシスタントの垣根がゆるくなっているスタジオが多いのも事実で、
現に教え子(筆者は専門学校の講師もしています)から、「入社して数ヶ月でアシスタントエンジニアをさせてもらえました!」という話もちょくちょく聞きます。
・アシスタントエンジニア
そんなアシアシ時代を経て、次にようやくアシスタントエンジニアになります。
スタッフクレジットに載るのはこのポジションからですね。
アシスタントエンジニアの仕事はおもにレコーダーのオペレートです。
現在においては、ほぼレコーダー=DAWですから、つまりアシスタントエンジニアの仕事はPro Toolsの操作と言ってしまっていいでしょう。
録音・再生だけでなく、パンチインや波形編集などを素早く正確に行う技術が求められます。
また、スタジオには外部からの乗り込みエンジニアが来ることもありますから、そのエンジニアが作業しやすいようにアテンドすることも大事な仕事のひとつです。
・レコーディングエンジニア
アシスタントを経てようやくレコーディングエンジニアになります。
レコーディングエンジニアの仕事は、当たり前ですがレコーディングです。
「Pro Toolsの操作はアシスタントが行うのに、ほかに何をするの?」と思われるかもしれませんね。
レコーディングエンジニアの立場は音の責任者といったところでしょうか。
どういう音で録り、どんな音作りをするのか。
どういうバランスで再生し、ミュージシャンには何の音を返すのか、といったことを決める人ですね。
ミックスまでを1人で行うこともあれば、レコーディングとミックスで担当するエンジニアが替わることもあります。
ちなみにレコーディングの現場にはディレクターと呼ばれる人もいて、こちらは、録音をどのように進行していくのかを仕切る"現場監督"的ポジションです。
ただ、エンジニアとディレクターの境目が曖昧な現場も多く、実質この2つを兼ねていることもあります。
専門学校に入らなきゃダメ?
レコーディングスタジオに就職するには専門学校を卒業していないとダメなのでしょうか?
答えはNo!です。
ただし!スタジオによっては採用試験時にミキサーやPro Toolsの操作を求められる会社もあります。
そういった所に入るには、全くの未経験では厳しいのも現実です。
専門学校であれば、実際のレコーディングスタジオで使われている設備で勉強が可能ですし、後述するような楽器の知識や機材の知識も得られます。
もちろん学校ですから、決して安くはない学費がかかります。2年間という時間も費やすことになります。
専門学校に入学するのであれば、整った設備でレコーディングが学べるのか、目標とするスタジオへの就職実績があるのか、といったところは事前にしっかり調べておきましょう。
思いつきで入学するのでなく、まずは資料請求をする、オープンキャンパスに行く、などして、
時間とお金をかけるに値するのかよく吟味しましょうね。
以下に、スタディサプリ進路から、レコーディングエンジニアを目指せる学校をピックアップしてリンクを用意しておきました。
鞍替え 別の職種から
レコーディングスタジオには就職せず、バンドマンや作曲家、PAエンジニアといった別の職種からエンジニアに鞍替えするという人もいます。
かくいう僕も、キャリアのスタートは作曲家からです。(両方やっているので鞍替えではないですが)
実はこのパターンの人は昔から多くいます。
「バンドの音源を自分で録ろう!」と思ってやっていたらいつの間にかエンジニアになっていた、とか。
「作曲やってるなら録音もできるでしょ?」と半ば強引にやらされたのがきっかけでエンジニアになった、とか。僕このパターンです。
「うちの会社(PA会社)でレコーディング部門も設けたけど、君エンジニアやってみる?」と言われてエンジニアになった、とか。
いずれにせよ、全くの素人からレコーディングの仕事はできません。
他の職種で経験・知識を蓄えていたからレコーディングエンジニアになれたわけですね。
リハスタからスタートするパターンも
簡易録音ができるリハーサルスタジオは昔からありましたが、最近ではPro Tools HDシステムを備えた本格的なレコーディングができるところも増えてきました。
そのため、リハスタのスタッフからレコーディングエンジニアになるというパターンも少なからず見受けられます。
そのスタジオのレコーディング担当になるパターンもありますし、
リハスタ勤務経験を経てレコーディングスタジオに転職する人もいます。
やっておいたほうがいいこと
レコーディングエンジニアに必要な知識・スキルを身につけるのに、今のうちからやっておいたほうがいいことをご紹介します。
楽器を知ろう
奏法・名称を知る
楽器の奏法や各パーツの名称を知っておきましょう。
以下はレコーディング中に飛び交う会話の一例ですが・・・
ベーシスト「間奏のスラップのとこ録り直したいな〜。」
ギタリスト「じゃあ、その後のブリッジミュートのパートもお願いします!」
ドラマー「俺、フラムのところもう一度聞きたいです。」
みたいな会話に付いていけないとスムーズに録音が進みません。
それぞれの楽器にはどんな奏法があるのかを知り、楽器ごと、奏法ごとの音を聴き分けられるようになっておきましょう。
とくにドラムは、バスドラ、スネア、ハイハットといった各パーツの名称と音色を一致させておくことも必要です。
生音を聴く
「ライブに行こう」というのは違います。
文字通りの"生音"を知っておくことが大切なんです。
ギターやドラムといったポピュラーな楽器でも、意外とマイクを通していない音は聞いたことがない人が多いです。
ライブでも音源でも、リスナーの耳に届いているのはマイクなどの機材を通った後の音ですよね。
残念ながら、これらの音は生音とは別物です。
ミュージシャンから「生っぽい音にしてほしい」というリクエストを貰うことが度々ありますが、そもそも生音を知らないことには応えられません。
もちろん、バンド経験が無くてもエンジニアにはなれますが、マイクを通る前の生音はたくさん聴いておきましょう。
友達にバンドをやっている人がいるなら、リハーサルスタジオでの練習を見学させてもらうといいかもしれませんね。
音楽を聴こう
スピーカーで音楽を聴く
ぜひ、イヤフォンやヘッドフォンではなくスピーカーで音楽を聴いてください。
スピーカーと比べると、ヘッドフォンは臨場感に欠けます。
というのも、そもそも音というのは空気を介して伝わるものだからです。
リスナーとの間に空気の層があるスピーカーと比べると、どうしてもヘッドフォンは耳に直接的に音が入って来ますから、不自然さがあるんですね。
また、上下、左右、奥行きといった音の定位もスピーカーのほうが掴みやすいです。
小節や拍を数えられるようになる
楽器の録音ではたいてい譜面を見ながらの作業になります。
譜面を見て演奏ができるほどのスキルはエンジニアには必要ありませんが、最低でも曲を聴きながら譜面を追いかけられるくらいにはなっておきたいところです。
そのためには、小節数・拍数を数えられるようになるのが近道です。
曲に合わせて、例えば4分の4拍子の曲だったら、
「1・2・3・4・1・2・3・4」と数える練習をしておきましょう。
ダルセーニョやコーダといった反復記号の知識も必要です。
有名ミュージシャンは押さえておく
「ニルヴァーナのNEVERMINDみたいな音がイメージなんだけど」と言われて、
「ニルヴァーナ?知りません。」ではお話になりませんよね。
それぞれに好きなジャンルの音楽があると思いますが、浅く広くでいいので、有名なミュージシャンや名盤と呼ばれる作品は押さえておきましょう。
レコーディング業界にアンテナを貼ろう
トレンドを押さえておこう
最新のDAWやプラグイン、レコーディング機材にはどんなものがあるのか、知っておきましょう。
今やサンレコがAmazonプライム会員なら無料で読める時代です。
※現在は無料読み放題はKindle Unlimitedのみのようです。
あまり知らない人だと、「あぁこの人はそんなにレコーディングに興味がない人なのかな」と思われてしまいます。
どんなスタジオがあるのか知ろう
自分の好きなCDのクレジットを見てください。
スタジオの名前が載っているはずです。
それこそサンレコを読んでもあちこちのスタジオが載っています。
スタジオの名前が分かったら、一度そのスタジオをググってください。
自分がやりたいと思っている仕事がどういうところで行われているのかを知っておくことも大事です。
野球選手になりたいと思っている人が、球団の名前を知らないなんて変でしょ?
定番の機材を知る
マイク・ミキサー・コンプレッサーといった音響機器にはどんなものがあるのか、また、接続や操作の方法も知っておく必要があります。
マイクだったらU87だとか、コンプレッサーだったら1176だとか、そういった定番機材は知っておきましょう。
通称を知る
現場では機材の正式名称ではなく、型番がよく使われています。
これは以前、くじら?たまご?知られざるマイクの通称の世界という記事で書いたのですが、
「くじらとたまご、にーごーきゅーで。アタマはななさんね。あ、ななろく通しといて。」
みたいな、暗号のような言葉がレコーディング中には当然のように使われています。こちらの文の意味は上の記事のリンクから。
こういった通称・愛称の知識も必要ですね。
資格は必要?
レコーディングエンジニアになるのに特別な資格は必要ありません!
ただし、サウンドレコーディング技術認定試験やPro Tools技術認定試験といったJAPRS(日本音楽スタジオ協会)の認定試験は存在します。
大手スタジオの人に聞くと、「同じくらいの実力の2人が最終選考に残っていたら、試験の成績が良い方を採用する」とは言われますので、受けないよりは受けておいたほうが良いでしょう。
リンク:JAPRS認定試験 | JAPRS 一般社団法人 日本音楽スタジオ協会
おわりに
レコーディングエンジニアというと、浮世離れした世界で狭き門というイメージがあるかもしれませんが、決してそんなことはありません。
求人もたくさん出ている現実的なお仕事です。
いくら良い曲があって、良いミュージシャンがいても、レコーディングエンジニアがいないと作品は世に出ません。
そう考えると、歌ったり演奏したりするわけではありませんが、とてもクリエイティブでやりがいのある仕事ですね。
「レコーディングエンジニアになってみたいな」と思っている皆さんに、今回の記事が少しでもお役に立てれば幸いです。
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