ライブハウス、レコーディングスタジオでよく見かける小さな箱のような機材、DI。
ダイレクトボックスとも言います。
ライブでエレアコ(エレクトリック・アコースティックギター)を使う人なんかにはおなじみの機材ですよね。
このDIという機材はなぜ必要で、どんなときに使うのでしょうか?
なぜ使うの?その役割は2つ
DIの役割は大きく分けて2つあります。
役割①インピーダンスを下げる
ひとつ目はインピーダンスの変換。
まず、大前提として知っておいて欲しいのが、機材の接続はロー出しハイ受けが基本だということです。
「インピーダンス」や「ロー出しハイ受け」についてはこちらの記事で紹介しているので詳しい説明は省きますが、出し手側のインピーダンスは受け手側のインピーダンスより低くないといけないという原則があります。
ここでいう出し手側はギターやベースといった楽器。
受け手側はミキサーやマイクプリ、インターフェイスです。
これを守らず、出し手側のインピーダンスの方が高くなってしまうと音がこもる原因にもなってしまいます。
また、インピーダンスが高い状態で信号を送るとノイズの影響を受けやすいというデメリットもあります。
ところが。
ギター・ベース・エレアコの出力インピーダンスはハイなんです。
そしてミキサーやマイクプリ、インターフェイスの入力インピーダンスはロー。
ということは、ギターをミキサーに繋ぐとハイ出しロー受けという真逆の接続になってしまいます。
そこでDIを使ってインピーダンスを下げてやるというわけです。
・ここでちょっと疑問が・・・
「いや、俺ギター弾いてるけど、DIなんて使わなくてもちゃんとした音鳴ってるよ???」
こんな疑問が湧いてきた方もいるのではないかと思います。
それは、アンプやエフェクターの入力インピーダンスがすごく高いからです。
それらは元々ギターやベースを接続する前提の機材なので入力インピーダンスは高く作ってあるんですね。
なので、アンプやエフェクターに繋いだ場合は、ちゃんとロー出しハイ受けになっていて問題ないということです。
役割②アンバランスをバランスに
ふたつ目はアンバランス伝送をバランス伝送に変換すること。
「バランス/アンバランス」についてはこちらの記事で紹介しているので詳しい説明は省きますが、アンバランス伝送はノイズに弱い!という点だけ知っておいてください。
ところが。
ギターやベースからの出力はアンバランス伝送です。
ケーブルを長く這わす場合には、信号にノイズが乗ってしまう危険性があります。
そのため、DIを使って、バランス伝送に変換してやるというわけです。
いつ使うの?
いつ使うの?
もちろん答は、インピーダンスを下げたい時と、アンバランスをバランスに変えたい時です。
つまり、ギター・ベース・エレアコといった機材を、直接ミキサーやマイクプリに繋ぐ時ですね。
そもそも、「直接(Direct)、接続(Injection)出来るようにする」というのがDI、ダイレクトボックスの名前の由来ですからね。
キーボードの接続にDIは必要?
でもキーボードの場合はちょっと事情が違います。
ネットで検索してみると「ギター・ベース・キーボードの出力インピーダンスはとても高いのでDIを使います」みたいに書かれてる文章をよく見かけるのですが、
キーボードの出力インピーダンスは必ずしも高くないです!
下の写真のような、いわゆるワークステーション系キーボードの多くはマイクと同じ程度の出力インピーダンスです。
ギターなどと違って低いので、DIを使わずにそのままミキサーやマイクプリに接続可能です。
でも、ライブハウスなどではキーボードの接続にDIがよく使われていますよね?
あれは、ステージからPAミキサーまでの長距離を伝送する際に、ノイズが乗らないようアンバランスをバランスに変換するのが主な目的なんです。
ただし、中にはインピーダンスが高いものもある(エレクトリックピアノやアナログシンセサイザーなど)ので、不安なら念のため数値をチェックしてみましょう。
いずれにせよ、キーボードでDIが必要になるのはケーブルを長く這わす際のノイズ対策なのです。
ライブでのベースは?
ではベースの場合。
ライブハウスでは、ギターはアンプに立てたマイクで音を拾っているのに、ベースはアンプ手前のDIからの音をPAミキサーに送りますよね?
ハコによってはアンプにはマイクを立てていない(=DIの音しか客席に届いていない)こともザラです。
「ベースからアンプに繋いで、それをマイクで拾えばいいじゃん! 現にギターはそうやってるし!」
と思ってる人も多いのでは?
・理由はベースの音域の広さ
ベースは低音楽器というイメージですが、実は超低域から超高域まで幅広い音域が鳴っています。
これをマイクで録るのは難しいんです!
単にマイクを立てても、耳で聴いているアンプの音とは別物の音になります。
たいていの場合は高域が不足して、ベースラインの輪郭が見えない音になってしまうんです。
耳で聴こえる音を再現しようとしたら、レンジの広いマイクをややオフマイク気味に立てることになるのですが、そうするとドラム等ほかのパートの音が被って使い物になりません。
その点、DIは超低域から超高域まで幅広くカバーできますので、DIからの音の方がよっぽどベースらしい音がするのです。
接続方法
では、実際の使い方、接続方法を見ていきましょう。
インプット・アウトプット・スルーアウト
まず、楽器からのハイインピーダンス・アンバランスの信号はインプット端子(図の右上)に接続します。
機種によっては、インストゥルメント(=楽器)からの信号を入力するところという意味で、INSTと表記されているものもあります。(COUNTRYMAN / TYPE85など)
アウトプット端子(図の左)からは変換の済んだローインピーダンス・バランスの信号が出ますので、これをミキサーやマイクプリに接続します。
スルーアウト端子(図の右下)からは、なんの変換もされていない音がそのまま出力されます。
ここからアンプに繋ぐことで、DIを使いながらもアンプの音も鳴らすことができます。
前述のTYPE85など、機種によっては、ここをアンプに繋いでくださいねという意味で、AMPと表記されているものもあります。
グランドリフトスイッチ
詳しい説明は省きますが、グランドループと呼ばれるノイズの原因を解消するために、グランドを浮かせる(=接続しない)ことができるスイッチです。
あんまり難しいことは考えずに、DIを繋いでノイズが発生した場合にはとりあえずこのスイッチを触ってみるくらいの感覚でOKです。
詳しく知りたい方はこちらのサイト様の説明が非常に分かりやすいと感じましたので、ぜひ一度ご覧ください。
(人任せ)
注意点
たまに勘違いしている人がいるんですが、DIの役割に「音を大きくする」というのはありません。
アウトプット端子から出ている信号はマイクレベルですから、ミキサー等に接続する際にもマイクインに繋いでください。
定番のDI
ここからは、レコーディングスタジオやライブハウスでよく見かける定番のDIをご紹介します。
COUNTRYMAN TYPE85
まずはド定番のDI、COUNTRYMAN(カントリーマン)のTYPE85。
もちろんレンジは広く、輪郭のくっきりした音質でありながら太さも兼ねそろえています。
3番ピンがホット信号になっていますので(普通は2番がホット)、マイク録りの音とミックスする際には位相反転スイッチを押しましょう。*1
BOSS DI-1
またまたド定番。BOSSのDI-1です。
音は良くも悪くも「普通」という感じ。笑
ただTYPE85と比べて安いので、数が必要なライブハウスではよく見かけますね。
こちらも3番ホットなんですが、DI自体に位相反転スイッチが付いており、「INV」の方につまみを動かすと2番ホットになります。
AVALON DESIGN U5
こちらは変わり種。
といってもロングセラーで、ベーシスト御用達のDIです。
何が変わり種かというと、まずDIなのにマイクプリ内臓である点。
先ほど、
DIの役割に「音を大きくする」というのはありません。
と言いましたが、このU5だと音を大きくすることができます。
つまり、ミキサーやマイクプリを通さず直接オーディオインターフェイスに入力することも可能ということです。
もちろんマイクプリを経由せずに本来のDIとして使用することもできますが、その場合でも音が太い!のが特徴的。
ナチュラルな音というよりはU5特有の音という感じになりますが、これが「太いのに輪郭もはっきり見える!」ってことでベーシストに人気なんですね。
そして、EQも使えるという点。
6種類のプリセットから選ぶだけなので自由度は低いですが、どれもしっかり効いてくれる設定になっています。
もちろんEQを通さないことも可能です。
難点としては重い・大きい・値段が高いというところですかね・・・。
他にも定番と呼べるDIはいくつかありますが、僕が何回も使ったことのあるやつだけをピックアップさせていただきました。
この記事を書いた人のTwitterはこちら。
*1:ホットとはなんぞや?という方は
ケーブルのバランスとアンバランスってどう違うの?をご覧ください。